ポスターアーカイブ

2007年9月、10月「ゲイ・ムービー1」

Morte a Venezia(ベニスに死す)

思えば、この映画、僕が生まれて初めて観たゲイ映画でした。当時中学生だった僕には、ただただ退屈だったけれど、成人してから観た時には、鳥肌がたつ思いで、スクリーン、ビデオで何度観たことか。

この映画には、まったくゲイというアイデンティティには触れられず、「美」への憧景や賛美という形で、たまたま同性愛を描いています。思えば、ヴィスコンティ自身、同性愛については十分に受け入れているだろうから、声高に主張する必要もなかったのでしょう。

映画は、静養のためにベニスにやって来た作曲家が、そのホテルで会った美少年に魅了されていきます。友人と「美」に対する観念の違いを闘わせながらも、自分の過去を省みる男。そういう中で、彼は疫病に冒されていきます。

作曲家を演じるダーク・ボガードの演技は、存在感だけで映画をこぶる崇高なモノにしています。(彼はジョセフ・ロージーの『召使』でも同性愛者を熱演しています。)

美少年タジオを演じるビョルン・アンドレセンは、当時、チョコレートのCMに出演していました。女のコたちから黄色い歓声をあげられていたけれど、彼が役の中で、幼さの中にも自分の存在(作曲家からの愛情)を自覚するナルシズムを垣間見せるほんのちょっとしたシーンで、ヴィスコンティの凄い演出が光ります。マーラーの「五番」を聴くたびに、うっとりと思い出す一作です。

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Kiss of the Spider Woman(蜘蛛女のキス)

日本版は頭に布を巻いたウィリアム・ハートの画像や、ソニア・ブラガの逆行シルエットのモノが有名なので、このカラフルな懐古趣味のイラストポスターは素敵です。

少年に手を出して投獄されたゲイと、政治犯のストレートの出会い。ゲイの男、モリーナが語る映画の話を中心に、この二人の男の変化を描いていきます。

会話を中心とした原作は、何度読んでも素晴らしいけれど、映画は、原作が持つ緊張感が感じられず、個人的にはもうひとつ、好きにはなれませんでした。

むしろ、その後リメイクされたストレート・プレイや、ミュージカルの舞台のほうが個人的には好みでした。(特にチタ・リベラ主演でブロードウェイ上演されたミュージカル版は、音楽、演出共に本当に素晴らしかった。)

この作品で、ハートはオスカーを受賞したけれど、自身、あまり気に入っていないと言います。

※この作品は、2009年7月現在、DVDは発売されていません。

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春光乍洩 Happy Together(ブエノスアイレス)

ゲイ映画、と言うよりも、日本ではウォン・カーウァイ監督作品としてミニシアター・ブームを作り、大ヒットした映画です。

香港から南米に渡り、痴話喧嘩が絶えないゲイのカップル。情愛、喧嘩、復縁、嫉妬などを繰り返す二人の姿を描いていきます。

すれ違い、暴言を吐きながらも、愛し合う彼らには最初感情移入が出来なかったけれど、 見直していくうちに愛すべき一本となった不思議な映画。

違う脚本を渡され、ブエノスアイレスの撮影に入った、こんなはずじゃなかった、とゲイの役に頭を抱えた、というトニー・レオンのコメントも有名でした。

余談ですが、この映画を最初に観たのが、香港の映画館。煙草の煙の中(当時、香港は喫煙しながら映画を観ていた)、英語と中国語の字幕で、画面が半分くらい覆われているスクリーンを凝視していたことを、よく覚えています。

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Before Night Falls(夜になるまえに)

主演のハビエル・バルデムは、この映画でアカデミー賞主演男優賞候補だったのに当時は無名。その後、「海をとぶ夢」「それでも恋するバルセロナ」などで少しずつ、知名度をアップしました。このバルデム、「ハモン・ハモン」や「ライブフレッシュ」で、エロい肉体を見せまくり、悶々エロエロ俳優して大注目された(ほんまかいな)。しかしながら、この映画のあと、「海を飛ぶ夢」では26年間、首から下が不随という別人のような顔を見せた俳優。(ちなみにG&L映画祭で上映された『第二の皮膚』でもこの人はゲイの外科医を演じていいます)

監督のシュナーベルは、このあと「潜水服は蝶の夢をみる」でブレイクしました。

さて、「夜になるまえに」。キューバで生まれ、革命後、ゲイ、そして作家という理由で迫害、投獄された実在の人物、レイナルド・アレナスの回想録から映画化された作品。この映画が感動的なのは、とにかく自由を渇望する彼の生き様。

いまだにゲイが死刑宣告を受けるというイランも含めて、こういう映画を観ると、日本での「ゲイ差別」って何だろうと思わずにいられなくなります。

この映画、あのジョニー・デップが極悪卑劣な中尉と、女装好きな囚人のふた役を演じているのも、大注目です!!(知らずに観ると、わからないほど別人。びっくりします)

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Lan Yu(藍宇(ランユー) 情熱の嵐)

インターネット小説として発表されて大ベストセラーになったという原作の映画化。

貿易会社を営むバイセクシャルのプレイボーイと、一夜限りの関係と割り切って寝た貧乏学生。北京で再会してから、恋に落ちる二人のその後を瑞々しく描いていきます。

地味ながらも、この純愛映画に好感が持てるのは、監督のスタンリー・クワン(香港版『セルロイド・クローゼット』とも言うべき『男生女相』は素晴らしかった!)の演出に他なりません。監督自体が、カミング・アウトしているだけに、劇中での演技指導も「本気で相手を愛するように」と言ったとか、伝えられています。

しかし、何と言っても、バイセクシャルの男を演じるフー・ジュンのセクシーさは眉唾モノ。彼はこの映画のほか、「東宮西宮」(ビデオタイトルは「インペリア・パレス」)でも、ゲイを取り締まりながらもセックスしてしまう制服警官を演じてますし、ゲイとは関係ない「インファナル・アフェア2」などでもセクシーな表情で悩殺してくれています(笑)。

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Hedwig and the Angry Inch(ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ)

元々オフブロードウェイで上演されていたロック・ミュージカルを偶然現地で観て、言葉がわからないままに感動していたのが、もう何年前になるんでしょうか・・・。そして、この映画が公開された時は、本当に熱病になるほどにマイブームとなった作品。

東西冷戦時代の東ドイツに生まれた少年は、米の黒人兵に結婚を申し込まれ、男のために性転換手術をします。しかし、その股間には1インチだけ、ペニスが残ってしまう。男に去られ、一人アメリカでロックシンガーとして生きる彼は、ヘドウィグと名前を変え、若く新しい恋人と恋に落ちていきます。

映画は、このあと、結局その「1インチ」が大きな問題となってしまいますが、「自分の片割れを探し続ける」という壮大なテーマと共に、全編に流れるパワフル、かつキッチュで可愛らしい音楽が本当に素晴らしく、胸の訴えてくる作品となっています。

このあと、監督でもあり、主演者でもある自身もゲイであるジョン・キャメロン・ミッチェル。僕は偶然にも、彼が出演した舞台ミュージカル「秘密の花園」をブロードウェイで観ましたが、まさかその時、彼がゲイだとは思ってもいませんでした。「ヘドウィグ」から5年以上経過して、彼は「ショートバス」というもの意欲作を作ります。ハードコアのような凄いシーンのオンパレードですが、これまたゲイが主人公の一人で、かなり良く出来た作品です。

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Brokeback Mountain(ブロークバック・マウンテン)

近年公開公開されたゲイを描いた映画でアカデミー賞絡みなど一般客も巻き込んで多くの話題を集めたせいか、お店でも最も多くの方が観た、と言っていました。それにしても、これほど賛否が別れる映画も少なくありません。大嫌いという人と、大好きという人。僕は後者で、なおかつ多くのゲイ映画の3本指に入るくらいに好きです。(ストレートは『ゲイ映画ではなく、普遍的な恋愛映画』という宣伝文句で、なるほどと心を許したとか。笑)

映画は、60年代初頭のアメリカ・ワイミオミングを舞台に放牧の羊番で出会う二人の若者。自分がストレートだと思い込んでいた(もしくは、思い込もうとしていた)男の苦悩と、ノンケ社会からの脱却を描いています。

個人的には、主人公と同じような青春時代を送っていただけに珍しく感情移入してしまったというところが、僕のこの映画の多大な評価の一要因になっているようです。

ちなみにこの映画の主演、ヒース・レジャーが28歳で亡くなったことは記憶に新しく、最後の出演作品「ダークナイト」ではアカデミー賞を故人として、受賞しました。

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Transameric(トランスアメリカ)

「ブロークバック・マウンテン」と同じ公開の年に公開された作品で、主演で、男性から女性への性転換者を演じた女優(ややこしい。笑)フェリシティ・ハフマンがアカデミー賞にノミネートされました。(同時期、彼女は、『デスパレートの妻たち』でもブレイクします。)

ただし、この映画「ゲイ・ムービー」というカテゴライズに入るのか?タイトルにある様、トランス・セクシャル(性同一性障害)が主人公。ただし、「自分が自分らしくいるために」というそのテーマから、僕は多くのゲイ映画よりも「マイノリティ感」は、突出しているのでは、と思いました。

男性から女性へと、性転換手術をすることを決めた主人公の目の前に自分が一度だけ女性とセックスした時に生まれた、という実の息子が出現します。自分の息子である事も、また男性である事も隠しながら、彼を養父のもとへ送り返すべく二人の旅が始まります。

ユーモアとペーソスに満ち溢れたワンシーン、ワンシーンがとにかく楽しくも、ほろっとさせる中で、父親と息子(って言うより、母親とも思えるかも)の愛情の育って行く過程に胸が打たれます。

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