ポスターアーカイブ

2007年11月「ゲイ・ムービー2」

Making Love(メイキング・ラブ)

ハリウッドでほぼ初めて、真正面から同性愛を扱ったという意味でとても意義深い作品です。

映画は結婚して久しい若き医師が、患者として偶然出合ったゲイの作家と会い、自分のアイデンティティを受け入れ、妻にカミングアウト。それを知った作家のほうは、特定の相手に絞って付き合うつもりはない言います。(こういうタイプの人いるので、凄くリアリティある!)そんな医師、妻、作家の3人が、この出来事をきっかけにしてどう生きていくのか。

昨今の映画に比べると、演出などにまどろっこしさはあるものの、この映画が導きびき出すものは、当時の僕も含めて多くのゲイを勇気づけてくれたと思います。

作家はマッチョ俳優、ハリー・ハムリンが演じていますが、劇中で「子供の頃、野球で失敗をしたら、父親に恥ずかしくて会社に行けないと言われた」というエピソードは今にも通じる男社会が映し出されていて興味深く感じました。

僕自身、自分がゲイだと確認し、当時付き合っていた彼女にカミングアウトしたあとで、一緒に観に行ったという今思うと、何とも残酷な事をしてしまった曰く付きの映画でもあります。(と言うか、まさにこの映画そのままだったワケで・・・お恥ずかしい・・・。)

もう四半世紀(遠い目)も経っているので、特に若い人は知らない人も多い映画となってしまいいました。何とか日本でも、DVD化されればいいんですが。(アメリカ版はあり)

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Victor Victoria(ビクター/ビクトリア)

その後、ブロードウェイでミュージカル化もされ、事実上、ジュリー・アンドリュースの最後のミュージカル映画(って言ってもいいでしょうね、歌も多いし。)となった作品です。

ジュリー・アンドリュースが演じるのは、ソプラノ歌手のビクトリア。仕事にありつけない彼女と、クラブ歌手を首になったゲイの男が考え付いたのが、「女装した男性歌手、ビクター」として売り出す、というアイデア。見事に成功するこの目論見だが、逆にビクターにクラブのオーナー。ビクトリア自身、彼にも惹かれていくけれど、女性だとばれるとクラブも首になるし・・・。

映画は、単にドタバタ・コメディにならずに、非情に抑制が効いていて、ところどころにエドワーズ監督(『ティファニーで朝食を』!)の手腕が発揮されています。

と言うか、これを「ゲイ映画」というカテゴリーに入れるべきかは難しいですが、全編ゲイ・テイストに彩られたという点に於いてはゲイ必見の一作と言って良いと思います。

ちなみに、「女性が『女装した男性』になる映画」は、もう1本、「コニー&カーラ」がありました。「ビクター/ビクトリア」にはちょっと届かないけれど、これまた爆笑できます。そうそう、今回の「ビクター/ビクトリア」のポスターを見て「ひげガールのポスター?」と聞いてきたお客さんがいました。そうそう。歌舞伎町の観光バーが、この図案そっくりのポスターなんですよね。

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Querelle(ケレル)

若くして亡くなったドイツのゲイ監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの遺作となったのがこれです。(『ファスビンダーのケレル』と表記されることもあります)

ジャン・ジュネの「ブレストの乱暴者」の映画化。港町ブレストに入港した駆逐艦に乗る水夫ケレル。淫売宿のおかみの情夫となっている兄を慕ってくるケレルは、その宿にたむろする男たちにそそのかされ、麻薬へと手を染めていきます。淫売宿の主人、刑事、建築労働者、そして上官などなどゲイ・ファンタジーに付き物の男たちが次から次へとケレルの身体を狙い、弄んで行きます。

朗々と朗読される哲学的な詩に、デカダンスな香り。これで引いてしまう人も多いけれど、見れば見るほどに味が出るファスビンダー節。あらゆる色彩を配色した舞台セットのような美術や、エロい男たちのポルノさながらの肉体を見るだけでも良いと思います。

主演のブラッド・デイビス、フランコ・ネロはもう野郎の臭いプンプンさせています。ちなみに、ブラッド・デイビス、彼を一気に有名にした「ミッドナイト・エクスプレス」でも男同士のシャワー・シーンをエロエロに見せてくれていますが、91年にヘテロ俳優で初めてのエイズ死者と報道されています。ただし、後にバイセクシャルだと公言していたこともわかったようです。いずれにしても、いい男だなあ。

ケレルのポスターは、アンディ・ウォーホルが描いたものが有名ですが今回ははあまり目にしないアメリカ版にしました。

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霸王別姫(さらば、わが愛/覇王別姫)

僕が愛した老舗のゲイ・バー「クロノス」にも来たと言う陳凱歌(チェン・カイコー)監督の、カンヌ映画祭最高賞パルムドールに輝いた中国映画の歴史大作ロマン。先月もここで紹介した「ブエノスアイレス」にも出演した故レスリー・チャンの主演作でもあります。

遊郭の母に捨てられ、京劇の養成所に入れられた少年といじめられる彼をかばうもう一人の少年。成長したそれぞれが、女形、男役として京劇きってのスターとなります。女型に徹するために、悩み苦しむ男が、辛苦を乗り越えた瞬間、心まで完全に女性へと生まれ変わっていきます。その後、非情な時代の中で、信頼と愛情で繋がれた二人に段々と亀裂が生じていきます。

文革のシーンが大幅にカットされているという事も耳にしましたが、後半多少物足りない気がするのは、そのせいでしょうか。しかしながら、前半部分、少年時代のエピソードは、何度観ても本当にただ、ただ素晴らしい。残念なのは、このあと、カイコー監督作る映画がなかなかこの作品を越えられないどころか、今ひとつなのが残念です。

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The Adventures of Priscilla, Queen of the Desert(プリシラ)

ゲイ映画というカテゴリーの中で、暗く重いものが多い中、キャンピーで明るく、途中ほろりとさせるシーンも絶妙に入っているオーストラリア映画。あまりゲイ映画を観ないゲイも、この手のモノは好きなようで公開当時は、僕の回りでも随分評判になっていました。その後ブレイクしたガイ・ピアーズ(『L.A.コンフィデンシャル』『メメント』!)が若きオネエを演じているのも今思うとスゴイですね。

シドニーで女装ショウをする3人のドラッグクイーンが砂漠の真ん中で行われる巡業に参加するためにオンボロバス「プリシラ号」に乗って旅をする。行く先々の田舎町で、彼らへの偏見、そしてそれぞれの過去などが次々と浮き彫りにされていきます。中年のドラッグ(テレンス・スタンプ)が、息子に会う時の緊張感は、先月紹介した「トランスアメリカ」にも通じるものが・・・。

映画はアカデミー賞を受賞した豪華衣装も見ものだけれど、ヴィレッジ・ピープル、グロリア・ゲイナー、シャーリーンなど当時のゲイ・シーンで耳慣れた音楽がどんどん流れていきます。それを聴くだけでも、十分に価値がある作品です。

その後、オーストラリアで、舞台版ミュージカルが作られ、僕もロンドンで観て来ました。それはそれは驚くほど大掛かりなセット、ゴージャスな衣装の数々で会場を沸かしてくれていました。ブロードウェイ入りするまでに行くでしょうか・・・。

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Bound(バウンド)

ポスターの中で、初めて登場するレズビアンの映画。でも、引くことなかれ。これは必見です!!!あの「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー兄弟監督が作った見事なまでのクライム・サスペンスとなっています。

刑期を終えて出所した盗みのプロのレズビアン女性。マフィアの知り合いから、アパートの内装、配管工事を頼まれた彼女だが、そのアパートの隣の部屋に住むマフィアの情婦と関係を持つ。情婦はマフィアの金を奪い、配管工の彼女と逃亡をくわだてる。

かなりひねりのきいた脚本に加えて、スタイリッシュな映像、そしてあらゆるシーンで才気あふれる演出には、鳥肌がたちます。主演のジェニファー・ティリー(『ブロードウェイと銃弾』必見!)とジーナ・ガーション(『ショウ・ガール』)の二人も超かっこいい。ゲイ、とかビアンというカテゴリーを越え、1本の娯楽傑作として、是非、観てほしいお勧め映画です。

そう言えば、主演のガーションは、この続編に出演したい、と先ごろ、ウォシャウスキー兄弟にオファーを出したとニュースされていました。実現キボンヌ(笑)。

ちなみに今回のポスターは、デザイン的に面白いフランス版を使用しました。

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ベント/堕ちた饗宴

79年にロンドンであのイアン・マッケランが初演したといういわく付きの舞台劇の映画化。数ヶ月後に上演されたブロードウェイでは、有名になる前のリチャード・ギアが主演したという事も有名です。日本でも役所広司、加藤健一、最近では椎名桔平などが出演していて、そのオリジナル脚本は、シンプルながらもとてもインパクトがある戯曲となっています。

映画の舞台は第2次大戦中、ベルリン。ゲイ専用キャバレーで働く男が、アウシュビッツ収容所に収監。彼は、そこで生まれて初めて、愛を感じる男と出会います。見つめあうことも、手を触れることも出来ない、という極限状態の中で、言葉だけで愛を語り合う二人。

舞台の限られた空間の中で、この二人の動き、会話は非情に象徴的、かつ感動的に描かれるけれど、映画では別の要素が組み込まれ過ぎ、ちょっと別物になってしまった感があって個人的には少し残念でした。

主演は「シン・シティ」などで、頭角を現し、「トゥモロー・ワールド」「デュプリシティ」などでも評価されているクライヴ・オーウェンが出演。それにしても、このサブタイトル、酷すぎますねえ。性に関して、少しタブーがあると、すぐ「禁断の」とか「堕ちた」となってしまう・・・。

監督のマサイアスは、主に舞台演出(この『ベント』や、『去年の夏、突然に』のリバイバルなど)を手がけていて、いまだに映画監督はこの一作だけのようです。

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盛夏光年 Eternal Summer(花蓮の夏)

台湾映画でゲイのものと言えば、ツァイ・ミンリャン監督(父、子がセックスしてしまう『河』がスゴイ!)、数年前に公開された「僕の恋、彼の秘密」(う〜む・・・これは辛かった。)などがあるけれど、この「花蓮の夏」は、ストレート直球型のゲイ青春映画に仕上がっています。

小学校時代、厄介者だった少年のお目付け役となる優等生。この二人が高校に進学したあと、転校生の女生徒が入ることにより、親友同士の男たちの関係が微妙に揺れていきます。

自分がゲイである事を認識している青年は、くったがなく、バイクやスポーツに明け暮れ、ある種無神経な友人に対して、やり場のない気持ちを持つ・・・。このあたり、高校、大学時代、同様の気持ちをノンケの親友に持った身としては、かなりこたえました。

美少年系ブライアン・チャンと、サル顔野郎系ジョセフ・チャンは好みがわかれるところですがもちろん、僕は後者がタイプでした。

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